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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第37章

 アメリアは相変わらず多忙な毎日を送っていた。いよいよ明後日に夏祭りを控えて、体育館のステージやグラウンドの夜店を担当するグループはそれぞれ最後の追い込みに入っている。今日はディルはまだ来ておらず、体育館にはアメリアとミントの二人がいるだけだった。

「で、アメリアの彼は来てくれることになったの?」
 ステージの照明の位置を確認しながら、ミントが何気なくつぶやいた。劇に使うBGMのCDを音響装置の上に並べていたアメリアは、真っ赤になった顔を彼女の方へ向けた。
「べべべべ別にかかかか彼だなんてそそそんな」
「なに焦ってんのよ」
 汗をかいてうろたえているクラスメイトの顔を見て、ミントは呆れて笑った。

「アメリアの彼かあ。どんな人なのかなあ。……おっと、言っちゃダメよ。当日までいろいろ想像して楽しむんだから」
「ミント、あなた心臓は丈夫よね?」
「なによそれ。毛が生えてるって言いたいわけ?」
「そ、そうじゃなくて……きっと見たらびっくりすると思うから……」
「ええっ、そんなにハンサムなの!?」
「そ、そうね。何て言うか、その……」
「ふっふーん、だ。ムダよ。あたしの心を試そうとしたって。あたしは生徒会長サマ一筋なんだから」

 ミントは最後の一言を声をひそめて言った。当の生徒会長が入口に現れて「ご苦労さま」と彼女たちに声をかけたからだ。彼は演劇部の部長も兼任しており、舞台の準備に立ち会うために来たのだった。ミントは仔犬のように彼のもとへと駆け出して行った。照明の段取りを聞く声がうわずっている。

 普段は強気のミントが憧れの人を前にすると、とたんに内気な少女に変わってしまうのが、見ていていじらしかった。片想いのせつなさがわかるアメリアだけに、生徒会長と、彼の指示を懸命に図面に書き取っているミントの二人を残してそっとその場を離れた。

 体育館の裏へ出ると、間の悪いことにマジョラムとその仲間が喫煙している場にばったり出くわしてしまった。違反を重ねて後がない彼らは、密告されるとまずいと思ったのだろう。舌打ちしながらも、さっさと火を消して早々にその場を立ち去り始めた。カツ上げに応じなかった時にアメリアをひっぱたいた少年が、すれ違いざま、やせこけた顔に細い目を光らせて「チクんなよ」と、凄んで行った。

「待って、マジョラム」
 少年の後について行きかけた少女に、アメリアは思い切って声をかけた。彼らは不審の目を向けたが、マジョラムが先に行くよう促すと黙って立ち去った。
 そのメンバーが一人足りないことにアメリアはふと気づいた。確かチャイブと呼ばれている小太りで赤ら顔の少年だ。どうしたのだろう……。

「ディルの彼女があたしに何の用?」腕を胸の前で組み、からかうようにマジョラムは言った。「あんた隣のクラスの――アメリアとか言ったわよね。ちょっと前まで盲目だった。まだ目がよく見えてないんじゃないの。あんなやつとつき合ってるなんてさ」
「そんな言い方しないで」
 偽悪的な物言いが悲しかった。マジョラムが言葉のとげで傷つけようとしているのは、アメリアではなく彼女自身だ。

「それに、わたしたちつき合ってなんかいないわ。ただの友達よ。ディルはあなたのこと―――」
 マジョラムはくっくっくとおかしそうに笑ってさえぎり、
「あんた本気にしてんの!? くだらない噂よ。バッカみたい。ディルがあたしに惚れてるって!?」
 そう言ってから体を折り曲げて大笑いした。
「あなたがディルをどう思ってるかはともかく、彼はあなたを本気で心配してるのよ、マジョラム」

 笑いやむと、マジョラムはアメリアをにらみつけて言った。
「あんた、お節介ね」
 そのまま行きかけた彼女の背にアメリアは叫んだ。
「このあいだゲームセンターの前にいなかった? 怖そうな男の人たちと一緒に」
 ギクッとマジョラムの背がこわばった。プラチナブロンドの髪が揺れて振り向いた顔は少し青ざめている。
「あの人たちはいったい誰なの?」
 マジョラムは無言のままアメリアに詰め寄り、瞳を覗き込みながら低い声で言った。
「命が惜しかったらこれ以上あたしたちに近寄らないことね。これは脅しじゃないわよ」


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