Cool Cool Dandy2 〜Summer Night Festival〜
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第51章
コーヒーカップに目を落とし、ソファにはす向かいに座ったまま、ふたりは無言だった。難しい表情を浮かべ、じっと何かを考え込んでいたヤムチャが顔を上げた。マリーンと目が合う。 「痔の秘密を知りイタイか?」 一瞬固まったあと、マリーンは飛びすさって叫んだ。 「あんた、痔だったの!?」 「ち、違う」ヤムチャはむきになって叫んだ。「ジョークだ。オレはただ、雰囲気を和らげようと……。ほら、『知りたい』と『尻痛い』をかけてるんだ。秀逸だろ?」 「……………………」 「この他に『ハナクソの秘密』というバージョンもあるが……聞きたいか?」 「遠慮しとくわ」マリーンは冷たく言った。 「いい出来だと思ったんだけどな」と、頭を掻きながらつぶやく彼を横目で見て、ついにマリーンは吹きだした。 「あんたって、ほんとにバカね!」 久しぶりに見る恋人の笑顔につられてヤムチャも笑いだした。笑い声がふたりの間にあったわだかまりを溶かしてゆく。 大きな手が細い腕をとらえた。やさしく引き寄せ、確かめ合うようなしみじみとしたキスを交わしてから、恋人の瞳をのぞきこんで彼は言った。 「ふがいないオレより、きみはザカーラを選ぶと思ってた」 「正直言って彼に心を動かされていたのは確かよ。でも、球場に着いて、気がついたらあそこにいたの。あんたしか見えなかった」 「オレも」ヤムチャは再びマリーンを引き寄せた。 「きみしか見えない」 お互いの体温を感じあった後で、ヤムチャは軽々とマリーンを抱き上げた。 「あっ――――ちょっ――――やだっ」 抗議の声を無視して彼は大股で部屋を横切り、寝室のベッドの上に彼女を下ろした。 「暴れたっていいぜ。でも、決めたんだ」 途方に暮れた子どものような表情の恋人と目を合わせ、彼は静かに、だが力強く告げた。 「きみをもらう」 桜色に染まった頬に長い睫毛の影を落とし、マリーンはこっくりとうなずいた。 恋人たちの夜が更けてゆく。ベッドサイドの柔らかな灯りの下で、ヤムチャはマリーンの髪を指で梳いていた。形のよい唇が男の顔の傷を愛しげにたどり、小さな声で囁く。 「顔だけじゃなくて、体中傷だらけなのね」 「永遠にきみに見せられないかと心配してたぜ」 「バカ」 マリーンは意を決したように目を上げてヤムチャを見つめた。 「怖かったのよ。あんたとこんなふうになるのが。だからずっと避けてたの」 「なぜ?」 「だってあたしは……」耐え切れず目をそらして彼女は言った。「いつもいつもあんたのことばかり考えてる。朝も昼も夜も。気がつけばあんたのことを想ってる……。そんな自分が信じられないわ。このままあんたといれば、あたしはダメになっちゃうんじゃないかと思った。そうよ、これ以上あんたを好きになって、あたしがあんたで一杯になってしまうのが怖かったのよ!」 これ以上の愛の告白があるだろうか……。恋人のいじらしい葛藤を、オレはずっといわれのない猜疑の目で見ていたのだ。自分の間抜けさ加減をもう一人の自分が嘲笑している。 彼の唇から洩れた小さな笑い声の意味を取り違えてマリーンは怒鳴った。 「笑うことないでしょ!」 ヤムチャは微笑んで言った。 「オレは感動してるんだよ。難攻不落の城だったきみが、白旗を掲げて全面降伏しているのを見て」 照れてそっぽを向こうとする恋人をこちらに向かせ、抱きしめながら彼は囁いた。 「結婚してくれるだろ?」 「あんたが言ってくれなきゃ、あたしから言おうと思ってた……」 姫君はついに城を明け渡した。 |