Cool Cool Dandy2 〜Summer Night Festival〜
1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20
21/22/23/24/25/26/27/28/29/30/31/32/33/34/35/36/37/38/39/40
41/42/43/44/45/46/47/48/49/50/51/52
第21章
少年は赤ら顔を更に赤くして、殺気をはらんだ目でいきなりマリーンの腕をつかんだ。 「口のきき方に気をつけろよなぁ」 そのまま無理やり引き寄せようとしたとたん、鈍い音が響き、少年は低くうめき声を発してその場にうずくまった。マリーンの鋭い蹴りが見事股間に決まったのだ。 「きゃー、チャイブったらカッコわるーい!」 背の高い赤毛の少年が女の子のようにシナを作っておちゃらけて叫び、他の者も面白がってはやし立てる。股間を両手で押さえたチャイブ少年が、引けた腰つきのまま泣きわめいた。 「笑ってんじゃねえよ。その女を捕まえろって! ちくしょーっ、ぶっ殺してやる!!」 ふざけていた少年がそのままヘラヘラ笑いながらマリーンの背後に回り込んだ。それを横目でうかがっている隙に、彼女の目の前に冷たく光る刃が突き出された。 「チャイブの二の舞はごめんだからな」ナイフをかざした細い目の少年は、やせこけて血色の悪い顔にニヤニヤ笑いを浮かべて言った。「動くなよ」 同時に後ろにいた赤毛の少年が、彼女を羽交い絞めにしてきた。 「なにすんのよっ」 振りほどこうともがくと、頬にぴたりとナイフをあてがわれ、マリーンは抵抗を止めた。怒りと悔しさで息が詰まりそうになる。 「どう料理すんの」薄茶色のショートヘアに赤いメッシュを入れた少女が、ガムを噛みながら言った。その隣で褐色の肌に短い黒髪のがっちりした体格をした少女が、黙ったままじっと黒い瞳をこちらに向けている。 「どうするよ? マジョラム」やせた少年が振り向きながら、ナイフを二、三度振って訊いた。 刺してやれ、切り刻んでやれと、キーキー叫んでいるチャイブを無視して、マジョラムがつまらなそうに言った。「髪でもちょん切ってやれば」 怒りをあらわにしてマリーンは睨みつけた。挑戦的に睨み返しながら近づくと、バカにしたような笑いを浮かべてマジョラムは言った。 「トラ刈りになっても、あいつが直してくれるじゃん」 「どけよ! オレがやる」ようやくキンケリの地獄の苦しみから復帰したチャイブが、やせた少年の手からナイフをもぎ取って叫んだ。「てめえら、どいつもこいつも意気地なしだ! 見てろ」 「ちょ、ちょっと待てよ、チャイブ。本気で刺すつもりか」 「それ、マジでヤバイよ」 口々に制する仲間に「うるさい」と怒鳴ると、チャイブは唇を舌で湿してナイフを握り直した。 「退学がなんだよ。学校なんか行かなくたって生きていけらあ。オレたちを受け入れてくれる場所はいくらでもあるんだよ」 チャイブは殺意をむき出しにしてマリーンに向き直り、右手で握ったナイフの柄に左手をあてがって構えた。マリーンの腋を冷たい汗が流れる。 その瞬間、張り詰めた空気が破裂するような音がして、チャイブは3メートルも後に吹っ飛ばされ、向かいの民家の植え込みに突っ込んだ。 「!!????」 何が何だかわからないまま、飛んでいった仲間をポカンと口を開けて眺めていた少年達は、背後から大声でどやしつけられてあわてて振り向いた。 「てめえらぁあぁ、よくもオレのマリーンに」 「ヤムチャ!」 恋人の姿を認め、安堵に瞳を輝かせてマリーンは叫んだ。 続いてヤムチャはマリーンを羽交い絞めにしていた少年の襟首を、ネコのようにつまみ上げて彼女から引きはがすと、そのまま脇へポイと投げ捨てた。 「な、何だよぉ、このおっさん」 「どこから来たんだ!?」 薄気味悪そうに彼らは後ずさりながら逃げて行った。ついでにチャイブを植え込みから引っ張り出すことも忘れなかった。マジョラムもマリーンにちらっと 彼らの姿が小さくなってから、ヤムチャはマリーンに向き直った。 「大丈夫か?」 「あんたって……スーパーマンみたいね」マリーンは眩しそうに笑って言った。 ヤムチャは頭を掻いた。「神殿にいたら変なやつらにからまれてるきみの姿が見えたんだ。間に合ってよかった。―――でもよお、おっさんだってよ。傷つくよな」 「あいつらから見ればあんたは立派なおっさんよ」 「スーパーマンに向かってそれはないだろ。―――それにだ」と、ヤムチャは怖い声を作って言った。「あいつらにだって同情の余地はある。おまえ、あれだけはやめろよな。あの地獄の苦痛は女にはわからんだろうが、死んだ方がまだましなんだぜ」 「ふーん。あんたもやられたことあるんだ」 「忘れたい過去だ。 ……ってなに言わせるんだよ」 いつもの軽口が上滑りしてゆく。硬い笑いのあとで彼らは見つめ合った。 お互いに言いたいことや訊きたいことが山ほどあるのに、言葉にすることが出来ない。 しばらくして、マリーンがうつむいて言った。 「あたし、仕事中なんだ。もう行かなきゃ」 「あ、ああ。オレもこれから試合だ」 ぎこちなく言い合って彼らは別れた。 |
BACK / NEXT
Cool Cool Dandy2目次へ
DB小説目次へ
HOMEへ