Cool Cool Dandy2 〜Summer Night Festival〜
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第44章
「だからしっかり見張っておけと言っただろう!」 ワゴン車から戻ってきたカークはマジョラムを叱りつけた後、イザーセに向き直ってその尻をしたたかに蹴り上げた。 「てめえもてめえだ! 余計なことしやがって。ちょろまかすつもりだったんじゃねえだろうな。めったなことしやがるとナプル川に浮くことになるぜ」 西の都のはずれから海に流れ込む暗くよどんだ川の流れを思い出し、イザーセは震え上がった。 「と、と、とんでもねえ。カークの兄貴。ちょろまかそうだなんてそんな大それたこと……。オ、オレ、ただ、7億ゼニーのお宝をちょっと拝んでみたくて……ほんの好奇心で……」 「そのくだらねえ好奇心のおかげでこのガキどもに見られちまったってわけだ」 口の端を歪めて痛む顎をさすりながら、カークは鋭い眼差しを床に投げた。そこには手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされて転がされたアメリアとディルの姿があった。 「ちっ、この石頭が」 カークは横たわったディルの頭を足蹴にした。アメリアを縛り上げようとするカークの顔面に、ディルは力いっぱい頭突きを食らわして抵抗したのである。アメリアが抗議の目で見据えると、男は懐から銃を取りだして彼女の眉間に当てた。 「いいか、お嬢ちゃん。そんな目でにらんでオレを刺激するなよ。でなけりゃ、あんたのかわいい顔に風穴があくことになるぜ」 カチリ、と安全装置を外す音が聞こえた。ディルが必死になって呻き声を上げながらもがいている。アメリアの気が一瞬、ふっと遠くなる。脳裏に浮かんだ愛しい人の姿に向かって、無意識のうちに彼女はその名を呼んでいた。 (ピッコロさん!) いたぶるような笑みを浮かべると、カークは安全装置を元に戻し、銃をしまった。扉の向こうから人々の歓声や音楽が聞こえてくる。祭はフィナーレに向けて最高潮に達しようとしていた。カークは扉をわずかに開け、グラウンドの方を伺いながら吐き捨てた。 「誰もここへ近づけるなと言っておいたのに、あのガキども。おおかた祭に気を取られて注意がおろそかになりやがったんだろう。後で覚えてやがれ」 アメリアとディルのふたりは状況が飲み込めず混乱する頭を整理しようと、懸命に脳細胞をフル回転させていた。ディルがマジョラムに訴えかけるような目を向けると、マジョラムは痛みをこらえるように目をそらした。 縛られたふたりを油断なく懐中電灯で照らしながらカークは低い声でイザーセに、もうじきここへやってくる取引相手のことを話し、段取りを注意し始めた。 「向こうはシャブーのやつが手下とふたりで来るそうだ。あまり大勢で出入りすると目立つからな。最後のダンスパーティーが始まって、みんなの注意がグラウンドに集中したら取引して一気にズラかるんだ。いいな」 「こいつらはどうするんです。兄貴」 太っちょのイザーセが床に転がった目撃者を指さして甲高い声で聞いた。カークは肩越しにちらりと彼らを振り向き、夕食は肉がいいか魚がいいか選ぶような口調で言った。 「そいつらか。そいつらにはナプル川に浮かんでもらう。いや、ビルから飛び降りるってのもいいな。いずれにしろ"自然な"自殺に見せかけるのが肝心だ。帰り際にどこかで始末しろ」 「や、やめて……」 マジョラムが弱々しく悲鳴をあげた。恐怖の見えざる大きな手に、頭からわしづかみにされている彼女を目に止め、カークは残忍な色を目に浮かべて言った。 「へっ、ビビッてやがる。てめえだって共犯だぜ。オレたちマフィアの仲間になりたいって言ったよな。教えてやるさ。これがオレたちのやり方だ。言っとくがな、今更やめるなんて言ったって無駄だぜ。てめえが逃げやがったらオレたちの事務所にいる、あのデブのガキがどうなるか考えてみるんだな」 チャイブのことだ!―――アメリアは瞬時に理解した。マジョラムたちはチャイブを人質にされ、犯罪の片棒を担がされているんだわ。 マジョラム、なぜこんなやつらと―――もし口がきけたらディルはこう叫んだだろう。深い悲しみと慈しみのこもった彼の瞳がじっと自分に注がれているのを感じながら、マジョラムは真っ青な顔で唇を震わせていた。 |
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