あんまり告知しなかったのだけれども、六日に開催された文学フリマでは本を作ってました。といっても、吹雪直雲くんの初の単行本を編集・装丁としておりました。背後が8P折本のブースでむちゃくちゃ盛り上がっていたのでどうなるかと思っておった。
作者の設定した販売目標が八冊。これは文フリのショバ代が4,000円だったからで、一冊500円の本を8冊売ってショバ代だけ元とろうという目標であった。今考えるとつつましい。
結果として28冊売れてしまったのです。3.5倍ですか。普通の会社だったら金一封とか出そうですよ! 普通の会社に就職したことが無いからわかんないけど。
居たところは金一封どころかボーナスさえなかったからなぁ。
で、まぁ「元がとれたか?」というとそのへんは目をつぶって欲しい。仮に完売をしても元が取れない算段であります。
ぢゃあせめて、もっとできるだけ売れて欲しいじゃないか! ということで以下、販売促進及び、本人に書けと云われていた(気がする)『ミサキとケースケ、あとカナ』の書評を書きました。
中身が気になる人は後で読んでいただければと思います。いや、結構良くなったのよ。破綻してないし。ちゃんと最後まで筋はつながったし。
なお、通信販売としては500円+100円(送料他)の600円で販売予定です。メール便でお送りします。
もし購入ご希望の方はメールフォームからお知らせください。
宜しくお願いします。
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解説
「本当にどうしようもない、いとおしい物語」
あー、タイトル書いてて歯が浮いてきた。
本作の読者に求めるものは、これ読んでケースケを「いとおしい」と思えるかどーかです。野郎のほうが「いとおしい」って思うと思う。吹雪直雲のえれえところは、駄目である自己の肯定、とそれを結局「ある時期のまとめ」としてとして、あるレベルまで描ききれたところにございます。本人は「10年の片想いの物語」って云ってたけれども、その片想いにひとつの生きる道を見出したんだろうなぁ。
どうもアニメの会社で制作だか進行だかとかやってたらしいのだけれども、その辺のクリエイターとしての力量はよくわからない。わかりません。会うってえと酒飲んだりカラオケしたりしている。じゃあこの『ミサキとケースケ、あとカナ』ってなんなの? というと、これが文学なのです。困ったことに純文学を書いてしまった。書けてしまった。
主人公の久ノ里(くのり)ケースケが高校時代の先生に電話で呼び出される。このケースケは小説で身を立てようと頑張っているフリーターで、今もどうも高校時代から引っ張っているモチーフで何か書こうとしている男。この男が文芸部の顧問である初瀬野に自分の書こうとしている新しい小説の話をしているうちに、おやおや、どうもこの顧問とのやりとりでさえケースケの小説らしいぞ……とまぁ、そういう複雑な、メタな、入れ子な、ええととにかく複雑な構造になっていて。じゃあ本人はどうしているかてえと、病院のベッドで寝ている。当のケースケは高校の時に、当時付き合っていた(?)彼女であるミサキと一緒にトラックに撥ねられておったという。ミサキは死んじゃったけれども、ケースケは植物人間としてずっと昏睡している。今までの話もケースケの夢の中の話だった……と。この辺の構造の「うまさ」ってのは流石に現場でやってた人だなぁ、という感じ。
駄目野郎。しょーがねえなー。二人してトラックに撥ねられたんならそのまま二人して死んじゃえばよかったのにっ。ひとりだけ生き残ってけつかる。で、そのまま目覚めない。困ったもんです。この「生き残った」くせに「10年間目覚めない」というのがケースケの、ひいては作者の現実。ケースケは「ミサキの居ない世界なんていやだー!」といいつつも結局は他人に迷惑をかけて生きてる。入院代だってバカにならないよ。
で、ミサキに双子の妹がいてですね。これがカナちゃんであります。で、彼女がずっとケースケの看病をしている。カナは高校時代から、ずっとケースケが好きだったらしい。で、ずっと見てる。ある日昏睡状態からケースケが目覚める。カナ、さぁどうする、と。この辺が作品の肝です。肝なんだと思います。あとは読んでください。駄目ですから。あまりにも消極的です。鼻水が出ます。
ここまで読んでいて「このクズ野郎」と憤るか、「いいのかこんなこと書いて」と思うかがこの作品の価値だと思います。読む人によっては、大顰蹙を買うと思います。
しかしながら、こういった未練がましさとか、一方的な愛情をぶつけたい欲求を社会的な体面とか理性でひた隠しにしながら生きている男性というのは少なくないんじゃないか。とも読み手である筆者は思うのです。いや、すべての男性がそうだというと異論があるかもしれませんが、でもほとんど男の心理としては間違ってないように思います。いや、まともな人間ではここまで書けない(褒め言葉)。この先には何も無い。別に片思いしていてもその先には何も無い。でも、思い続ける。
ちょっとこれだけの破滅型作者、いないと思います。
本作、吹雪直雲にとって最初で最後の刊行になるかもしれません。
読んだところで心温まりもしないし、爽快感も無いです。ありません。
ただ、多くの男どもが人目に触れぬようにしているものが、文章として踊っている。
なんという戦慄!
あーもーだうしましょう。本当にどうしようもない!
と、そう思って表紙を作りました。
表紙に騙されて買った人が唖然としますように。
そして、もっと売れたことに気を良くした作者が次の作品も書きますように。
とにもかくにも、『ミサキとケースケ、あとカナ』、間違いなく文学です。